2013年2月2日土曜日

【創作】クロスロード


ある夜、僕は交差点に立っていた。


交差点には悪魔がいた。


悪魔は言った。



「君の魂をくれないか。そうすれば世界一のギターテクニックを教えてあげるよ」



僕は迷った。


僕はただのサラリーマンだ。

妻も子供もいる。

守るべき家庭がある。



僕にはかつて夢があった。

子供の頃からミュージシャンになりたかった。

学生の頃はバンドも組んだ。

プロを目指せると思った。


でも、結局あきらめた。

そして家族を手に入れた。



だけど、時々考える。


本当は夢をあきらめるべきではなかったんじゃないだろうか。

あのまま夢を追いかけていれば、今頃はもっと充実した人生を送っていたんじゃないだろうか。



僕はしばらく考えた。




考えている間、悪魔はじっと答えを待っていた。



ようやく僕は答えた。


「僕は、魂を悪魔に売り渡すわけにはいかない。僕には守るべき家族がいるんだ」


すると、悪魔は答えた。


「もういないよ」


僕は僕の手を見た。しわしわになっていいた。


髪の毛は抜け落ち、半分以上の歯もなかった。


僕は年を取っていた。


そしてすべてを失っていることを思い出した。

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