2013年7月8日月曜日

空っぽの部屋

あるところに、部屋がひとつありました。


部屋の中は、美しい絵や、高価な飾りでいっぱいでした。


その部屋にはたくさんの人が訪れました。

そして、部屋の美しさに感心して帰っていきました。


部屋はそのことを、たいへん誇りに思いました。




ある日、部屋にオオカミがやってきました。


オオカミは、部屋の中で思う存分暴れました。


美しい絵や、装飾品は見る影もなく壊れてしまいました。




部屋はとても傷つきました。




部屋はあまりにも悲しかったので、部屋の中を空っぽにしてしました。


もう二度と、大切なものを壊されたくなかったのです。


しばらくして、またオオカミがやってきました。


しかし、何も壊すものがないので、残念そうに帰っていきました。



部屋はホッとしました。




部屋の中はあまりにもがらんとしていて、何もないので、訪れる人はだんだん少なくなっていきました。


やがて、部屋には誰も来なくなりました。






ただひとり、女の子がときどき部屋を訪れました。


女の子は、部屋を訪れるたび、がらんとした部屋をしばらく眺めました。


そして何かのしるしのように花を一本、部屋において帰りました。



女の子は花が枯れるころにまたやってきて、新しい花と交換して帰りました。

女の子は帰るときはいつも、少し寂しそうな顔をしました。

その顔を見るたび、部屋は胸が苦しくなりました。





ある日、部屋は女の子のために、テーブルとイスと花瓶を用意しました。


テーブルの横には、窓をこしらえました。




女の子が部屋にやってきました。



女の子はイスに腰を掛け、花瓶に花を活けました。


そして、しばらくぼんやりと窓の外を眺めました。



女の子は帰るとき、少し、うれしそうな顔をしていました。


その顔を見て、部屋は暖かい気持ちになれました。



それからも女の子はときどき部屋を訪れました。


女の子は部屋訪れるたび、同じように花を替え、イスに座り、窓の外をぼんやり眺めました。

そして、すこしうれしそうに帰っていきました。






ときどき、オオカミがやって来て、テーブルやイスをひっくり返していきました。

その度に部屋は、女の子がいつ来てもいいように、部屋の中を元に戻しました。




部屋には以前のようにたくさんの人が訪れることはありませんでした。


しかし、部屋はとても幸せでした。

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