2013年4月29日月曜日

【ネタバレ注意】『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』について、じわじわ思ったこと

時間をおいて、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の「あれって、こういうことなんじゃないの?」みたいなのが、2、3思い浮かんだ。



思いつきなので、論理的に「穴」はたくさんあると思うけど、備忘録的に書く。


ネタバレ注意。


名前の中の色彩について



色彩は何を意味するのか。



この物語には、名前に色を持つ人物と、持たない人物がいる。


名前に色を持つのは7人。

多崎つくると、高校時代にグループを形成した4人。

  • ミスター・レッド
  • ミスター・ブルー
  • ミス・ホワイト
  • ミス・ブラック


大学時代の友人とその父親。

  • ミスター・グレー
  • ミスター・グレー(父)


ミスター・グレーの話に登場する人物。

  • ミスター・グリーン。



彼らはなぜ色を持つのか。


「個性的だから」、という理由だけなら多崎つくるの現在の恋人、会社の後輩たちに「色」がない理由の説明が付かない。



彼らが色彩を持つ理由を考えてみた。


名前に色彩を持つ人物たちは、「多崎つくる」にとって「過去の人」なんじゃないだろうか。

過去の思い出。

思い出の中にだけ存在する色彩。

思い出を彩る色彩。


逆に言えば、名前に色彩を持つ人物は、多崎つくるのもとから去って行く。

彼らは二度と多崎つくるの前に姿を現さないだろう。



ただ、「ミス・ブラック」は、自分と「ミス・ホワイト」のことを「シロ」「クロ」と呼ばないでくれといった。

色ではなく名前で呼んでくれと言った。


自分たちの存在を「過去」とひとくくりにされることを拒んでいるように感じられた。


二度と会えなくても、多崎つくると同じ時間を生きている、それを彼にわかっていてほしいという強い思いが感じられた。


生身の人間に立ち返ることを求めているように見えた。


人間が持つ「色」が見える能力について

ミスター・グリーンは、近い将来の「死」と引き換えに、人間が持つ「色」を見る能力を手に入れる。

その知覚は、一旦経験してしまうと、今までの生きてきた世界が”おそろしく平べったく見えてしまう”ほどのものだ。

それほど、魅力的な能力。


ミスター・グレーがなぜこのような不思議な寓話を多崎つくるにしたのか。

そこは、物語の上で重要なんだと思う。


ミスター・グレーが語るこの寓話は、多崎つくるの高校時代を暗示するものではないだろうか?




多崎つくるは、「赤」「青」「白」「黒」の色を持つ人間と”乱れなく調和する共同体”を作り上げた。


この、「名前に色を持つ人々との共同体」=「人間が持つ色を見る能力」なんじゃないだろうか?


そして、その共同体に比べれば、周りの世界が”おそろしく平べったく見える”くらいに完璧な共同体。


それと引き換えに、彼は実際に”死”に直面する。


それは、ある意味では本当の死だった。

肉体ががらりと変わり、内面はほとんど入れ替わってしまうほどのものだった。


また、ある意味では、”乱れなく調和する共同体”からの追放(能力の喪失)によって生き返ったともいえる。

ミスター・グレーの寓話は、「”乱れなく調和する共同体”を手に入れた多崎つくるが死に直面した」ということを暗示しているのではないか。



じゃあ、ミスター・グレーが能力の喪失後に現れた理由は何だ? という問題が残るので、まだ穴はあるけど、人間の色を見る能力は、多崎つくるの高校時代の比喩だという仮説は、割といい線いってるんじゃないだろうか?





駅を作ることについて



多崎つくるは、駅を作っている。

駅と聞いて、『ダンス・ダンス・ダンス』を思い出した。

二つのドアを持つ、空っぽの部屋。

互換性のない、入り口と出口。

誰かが入り口から入ってきて、出口へ出ていく。


駅も、誰かが入ってきて、誰かが出ていく。

ただ、自分はそこにいて、眺めていくだけだ。


最初、多崎つくるも、『ダンス・ダンス・ダンス』でいうところの、「ドアが二つある部屋」にいるような気がした。


だけど、読み進めていくうちに、どちらかというと、『羊男の部屋』を思い浮かべた。


何かと何かをつなぐための部屋。


駅は、どちらかというと、「つなぐための機能」だ。


多崎つくるは、駅を作ることで、何かと何かをつなげている。

羊男が「僕」のために何かをつなげるように。



多崎つくるは、羊男が何かをつなげる代わりに駅を作る。

、『ダンス・ダンス・ダンス』の「僕」が文化的雪かきをするように、駅を作る。

そして、「僕」がダンスステップを踏むように、「巡礼」をする。

”つながっている”
と僕は思った。


関連エントリー

自由意志について/色彩を持たない多崎つくると、LIGとAKB


【感想文】色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年/示唆に富みすぎて考えがまとまりません




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